「機密情報だから、AIには何も入れないでください」と決めた会社の研修で、受講者が手を止める場面があります。売上の表も、来期の計画も、社内の手順書も入れられないなら、仕事で使える場面がほとんど残らないからです。この記事では、全部禁止にせず、入れてよい情報と入れない情報を分ける考え方を、研修でどう教えるかを説明します。
答えは、禁止の一覧を配るのではなく、受講者に「入れてよい情報」を自分で3つ書き出させることです。そのうえで、入れる前に確かめる情報と、入れない情報を決めて並べます。Qu(株式会社ストリックランド)の研修で扱うなら、この順で進めます。2026年10月時点の考え方です。
全部禁止にしない理由
業務でAIを使うとは、業務の情報を入れることです。入れてよい情報が1つもなければ、研修で使い方を覚えても、仕事では使えません。
使えない決まりは、守られにくくなります。社員が個人のAIアカウントでこっそり使う形になりやすく、会社は何が入ったかを確かめられません。
線を引く目的は、使わせないことではありません。安心して使える範囲を、会社として先に決めておくことです。
研修で最初に書かせること
最初の演習は、白紙の紙1枚です。自分の仕事で、AIに入れても困らない情報を3つ書かせます。
たとえば、次のような情報が出てきます。
- 自社のホームページに載っている会社紹介
- すでに公開している料金表
- 社外に配った案内文の下書き
書き出す理由は、受講者が「入れてよい情報は意外と多い」と分かるからです。禁止の一覧を先に見せると、受講者は入れられないものばかり数えて、手が止まります。
弊社の例を挙げます。弊社は Qu の法人向けプランの料金と中身を公開しています。公開済みなので、この料金表をAIに入れて、比較表や案内文の下書きを作らせても問題はありません。同じ会社の情報でも、公開したものと、社内だけのものでは扱いが違います。この違いを、受講者に体で覚えてもらいます。
情報を3つに分ける
書き出しのあとで、情報を次の表のように分けます。表は研修で配る紙の見本です。
| 区分 | 例 | 扱い |
|---|---|---|
| 入れてよい | 公開済みの資料、社外に配った文書 | 自由に使う |
| 入れる前に確かめる | 社内向けの手順書、売上の表、未公開の計画 | 会社が決めた範囲だけ入れる |
| 入れない | 氏名、住所、電話番号、メールアドレスなど個人を特定できる情報 | どの場合も入れない |
真ん中の区分が、この記事の中心です。ここを「禁止」に入れると全部禁止に戻り、「許可」に入れると漏れる心配が残ります。そのため、会社が決めた範囲だけと書きます。
個人を特定できる情報は、議論の余地がありません。個人情報保護法の面からも、入れないと先に決めておきます。伏せ方の教え方は、別の記事にまとめています。
真ん中の区分の決め方
真ん中に入る情報は、1つずつ会社として決めます。研修では、次の2つを受講者に確かめさせます。
- 使っているAIは、入れた内容を学習に使う設定か。確かめ方はAIに入れたデータが学習に使われるかは、契約書の確認から研修で教える(新しいタブで開きます)に書きました
- その情報が外へ出たとき、誰が困るか。会社か、お客様か、社員か
学習に使われない設定で、外へ出ても困る人がいない情報は、入れてよい側に移せます。たとえば、売上の表から取引先の名前を消し、傾向だけを見る形にしたものです。逆に、設定が確かめられていないうちは、真ん中のままにします。
決めた結果は、情報の例と一緒に1枚の紙に残します。例がないと、受講者は自分の資料がどの区分か判断できません。この紙の作り方は、AIに入れてよい情報は、守るものを決めてから研修で教える(新しいタブで開きます)も参考になります。
会社に線引きが要る理由
線は、社員ひとりひとりの判断に任せると、人によってずれます。売上の表を入れる人と、入れない人が同じ部署に出ます。
ずれたままだと、困る場面が2つあります。1つは、慎重な人が使わなくなり、AIを使う人と使わない人で仕事の進み方に差が出ることです。もう1つは、慎重でない人が、未公開の計画を入れてしまうことです。
会社が線を決めておけば、迷ったときに紙を見ればよくなります。迷って止まる時間も、迷って入れてしまう危険も減ります。
明日できる次の一手
研修の担当者が、明日できることは1つです。自分の部署の人に、「AIに入れても困らない情報を3つ書いてください」と頼みます。時間は10分で足ります。
集まった紙を見て、似た情報をまとめます。そのうえで、「入れてよい」の欄に入る情報の候補を作ります。真ん中の区分は、この時点では決めなくて構いません。迷った情報を一覧にして、会社として決める人へ渡します。
書かせてみると、受講者が何を機密と考えているかも見えます。思ったより広く機密と考えている人には、公開済みの情報から先に使わせます。
弊社は、外へ出す文章を公開する前に、人が読んで分かる言葉かを確かめています。それと同じで、情報の区分も、一度決めて終わりではなく、使いながら読み直します。研修の最後に、次の見直しの日を紙に書き込んでおきます。