出張の宿泊費の上限を変えたのに、社員から「古い金額で申請したら通った」と言われた。そんな場面は、規定を変えたことがある会社なら思い当たるはずです。この記事では、規定を変えたあとに古い規定を探す手順を、研修でどう教えるかを説明します。
答えは、新しい規定を書き終えた時点を作業の終わりにしない、と研修で教えることです。規定を変えたら、同じ内容を書いた別の場所を探して直すところまでを、ひとつの仕事として練習します。探す場所の一覧、言葉で探す手順、見つけたあとの扱いの3つを、順に教えます。2026年10月時点の考え方です。
古い規定が残る理由を先に教える
規定は、ひとつの文書にだけ書かれているわけではありません。就業規則や経費の決まりのほかに、新人向けの手引き、よくある質問の一覧、チャットの固定メッセージ、過去の通知メールにも同じ内容が写されています。
規定を変える担当者は、元になる文書を直します。写しの存在を知っているのは、その人だけです。だから写しが残ります。研修の最初にこの仕組みを説明し、「直し忘れは、うっかりではなく、起きやすい構造の問題です」と伝えると、責める空気が消え、探す手順の話に入りやすくなります。
AIに社内の資料を読ませている会社では、問題がもう一段重くなります。ある記事では、出張の宿泊費の上限が変わったのに、古い数字が別の資料に残っていた例が紹介されています。AIは、知識の中から二つの数字を見つけて矛盾に気づき、どちらを使うかを人に聞く形でした。矛盾に気づいて聞いてくれるうちはよいのですが、古い数字しか見つからなければ、AIは古い数字を答えます。人の目でもAIの目でも、古い規定が残っていれば間違いが出ます。
探す場所の一覧を作らせる
最初の練習は、探す場所を書き出すことです。受講者に、最近変わった規定をひとつ選んでもらい、その内容が書かれていそうな場所を、思いつく限り挙げてもらいます。
| 場所の種類 | 見落としやすい理由 |
|---|---|
| 元の規定の文書 | 直すのは当然なので、見落としは少ない |
| 手引きや説明資料 | 作った人と直す人が違うことが多い |
| よくある質問の一覧 | 規定と別の担当が管理している |
| チャットや掲示板の固定メッセージ | 文書の一覧に載らない |
| 申請用紙や入力画面の注意書き | 画面を作った人しか内容を知らない |
| AIに読ませている資料 | 古い版のコピーが残りやすい |
この表を研修で配り、自社の場所に書き換えてもらう流れです。弊社の1社毎週定例の研修では、週1回の全体の会議があります。その場で、受講者が自分の部署の置き場を発表し合うと、他の部署が知らない場所が出てきます。漏れが減るのは、ひとりで書き出すより部署をまたいで集めたときです。
言葉を変えて探す手順を練習する
場所が決まったら、中を探す手順です。ここで教えるのは、探す言葉を複数用意することです。
- 変えた項目の名前で探す。たとえば「宿泊費」と入れる
- 同じ意味の別の呼び方で探す。「宿泊代」「ホテル代」など
- 変えた数字そのものを、古い値で探す
- 見つかった箇所の前後を読み、今も有効な説明かを確かめる
書き方がひとつではないことが、この練習の核心です。同じ規定を、ある人は「宿泊費」と書き、別の人は「ホテル代」と書きます。ひとつの言葉で探すと、片方しか見つかりません。
古い値で探す手順は、特に有効です。上限額が変わったなら、古い金額の数字を検索すれば、規定の言葉が違う場所でも見つかります。受講者には、実際に自社の資料で試してもらい、見つかった件数を報告してもらいます。
見つけた古い規定をどうするかを決めておく
見つけたあとの動きを決めておかないと、探す作業が止まります。研修では、見つけた箇所を3つに分ける考え方を教えます。
- 直してよい箇所
- 元の文書と同じ内容を写しているだけの箇所
- 管理者が自分で決められる
- 持ち主に連絡する箇所
- 他部署が管理している資料
- 勝手に直さず、連絡先を決めておく
- 消してよいか迷う箇所
- 過去の通知など、当時の記録として残す文書
- 古いと分かる印を付けて残す
過去の通知は、当時の決まりを示す記録なので、消すと困る場合のある文書です。ただし、今の規定と誤解されないように、「この内容は何月何日に変わりました」と冒頭に書き足す方法があります。このあたりは会社ごとに答えが違うので、研修では正解を押しつけず、自社の考えを書かせます。
決める前に話し合う点
次の点は、研修で教える前に、会社として話し合っておくとよいです。ここに書くのは決まった答えではなく、古い規定を探す作業の担当を誰にするか、規定を変えてからいつまでに探し終えるか、他部署の資料を見つけたときに直す権限を誰が持つか、直した記録をどこに残すか、という4つの論点です。
担当が決まっていないと、「誰かがやるだろう」で終わります。期限を決めないと、探す作業は後回しになります。会社として決めるべき理由は、古い規定が残ったままだと、社員もAIも古い基準で動くからです。間違いが出てから直すと、取り消しや謝罪の手間が増えます。
探す手順を書き残すときは、担当が替わっても同じ結果になる手順書(新しいタブで開きます)の書き方が参考になります。
明日できる次の一手
研修を始める前に、明日ひとつだけやってみてください。最近変わった規定をひとつ選び、その規定の古い値で、社内の共有フォルダとチャットを検索します。
見つかった場所と件数を、紙1枚に書き出します。ひとつでも古い値が見つかれば、それが研修で使える実例になります。見つからなかった場合も、「探したが残っていなかった」という確認の記録です。実際の社内の例が1つあれば、受講者は自分の仕事として受け止められます。
その1枚を元に、探す場所の一覧、探す言葉、見つけたあとの扱いを、自社の言葉に書き換えて研修で配ります。作り話の例より、自社で本当に見つかった例のほうが、受講者の手が動きます。