部下に仕事を任せたいと思っても、何かあったら自分が責められると考えて、手放せない管理職は少なくありません。研修で「どんどん任せましょう」と言うだけでは、その不安は消えません。この記事は、手放す権限と自分に残す責任を、研修でどう書き分けさせて教えるかに答えます。
答えは、研修の中で1枚の表を書かせることです。左に「手放す権限」、右に「自分に残す責任」を置き、1つの仕事につき1行ずつ書きます。権限とは、その仕事を自分で決めて進めてよい力のことです。責任とは、結果が悪かったときに説明して、直す役目のことです。弊社の Qu では、権限は渡せても責任の一部は手元に残る、と研修の最初に伝えます。
分けないと任せられない理由
権限と責任をひとまとめに考えると、手放すか手放さないかの二択になります。全部を渡すのは怖いので、全部を握ったままになります。
会社にとって、これは損です。上司が全部を握ると、部下は判断の練習ができません。上司が休んだ日に、仕事が止まります。
反対に、責任ごと渡したつもりで放っておくと、問題が起きたときに誰も説明できません。お客様に対して会社が説明できない状態は、会社として避けなければなりません。
だから研修では、「何を渡すか」と「何を持ち続けるか」を別々に書かせます。分けて書けば、二択ではなくなります。
連載にある見方
ある連載では、自律とは1人で自分を管理することではない、と書かれていました。互いに何をしたいのかと、誰がどこまで引き受けるのかの違いを見えるようにして、支え合うことだという考えです。
この見方を研修に使うと、手放すことは放り出すことではない、と説明できます。握っている権限を見えるようにして、ほかの人が動ける範囲を広げたうえで、自分に残る責任をはっきり引き受けます。ここまでを1つの動作として教えるのが、この研修の進め方です。
研修で書かせる表
受講者には、自分の仕事を3つ選ばせます。どれも、いま自分だけで決めている仕事です。選んだ仕事は次の表に書き込みます。
| 仕事 | 手放す権限 | 自分に残す責任 |
|---|---|---|
| 週次の報告資料 | 構成と文面を決めること | 外へ出す前に内容を読むこと |
| 取引先への日程調整 | 候補日を選んで送ること | 契約に関わる日程は自分が確認すること |
| 新人への指示出し | 作業の順番を決めること | 期限に遅れそうなときの報告を受けること |
書き終えたら、2人1組で読み合わせます。相手は「この権限を渡すと、何が起きるか」と「この責任は本当に自分が持つべきか」を1つずつ聞きます。聞かれて答えに詰まった行は、分け方があいまいです。
ここで大切なのは、責任の欄を長くしすぎないことです。責任の欄が長いと、結局は手放していません。目安は1つの仕事につき1文です。
1on1型の研修での進め方
弊社の法人向けには、5名までの受講者に専属の講師が1対1でつく、1on1型の短期集中研修があります。期間は2か月です。
この形では、受講者が自分の本当の仕事で表を書けます。集合型の研修だと、例が一般的になりすぎて「自分の部署では違う」と言われがちです。1対1なら、講師が「その仕事は、いま誰が決めていますか」と本人の仕事そのものを聞けます。
最初の面談で1行目を書き、次の面談までに実際に1つ手放して、結果を持ち寄ります。うまくいかなかった場合は、権限の渡し方が悪かったのか、残す責任が足りなかったのかを一緒に見直します。
人に任せる場合とAIに任せる場合
この表は、部下だけでなくAIに仕事を渡すときにも使えます。AIにも、どこまで進めてよいかを決めて渡し、結果を外に出す責任は人が持ちます。
研修の最後に、同じ表を使ってAIに任せる仕事も1行書かせます。人に任せる練習がそのままAIに任せる練習になる、と気づけるからです。AIの確かめ方は、任せる範囲を広げる前に確かめる人と場所を決める(新しいタブで開きます)で扱っています。
明日できる次の一手
研修を受けた翌日に、まず1つだけ仕事を選びます。選ぶのは、失敗しても取り返しがつく仕事です。
次の3つを、メモに1行ずつ書いてください。
- その仕事で、明日から相手が自分で決めてよいこと
- その仕事で、自分が最後まで持つこと
- 相手に確認してもらう日
書いたメモは、そのまま相手に見せます。見せることで、相手は動いてよい範囲が分かります。自分も、持ち続ける責任を忘れません。
部下への伝え方は、部下に仕事を任せる伝え方は、期待の理由と最初の小さな仕事から教える(新しいタブで開きます)にもまとめました。
教えるときの注意
権限を手放した直後は、上司が不安になって口を出したくなります。研修では、口を出す前に表を見返すよう伝えます。表に書いていないことで口を出すのは、書いた約束を自分で破ることになるからです。
また、責任を残すことと、結果を全部自分で直すことは違います。直す役目は、最初は部下に戻します。上司の責任は、直るまで見届けて、必要なら会社として説明することです。
2026年10月時点で弊社が公開している研修の形は、ここまでに書いたとおりです。手放すことへの怖さは、何を手放して何を持つのかが見えると小さくなります。