AIの画面の端に、小さな字で「間違えることがあります」と書いてあります。社内のAIのルールも、禁止事項が長く並んだ文書になりがちです。けれども、どちらも読まれないまま使われている場面は多いはずです。この記事は、読まれる注意書きとルールの書き方を、研修でどう教えるかに答えます。
研修では、注意書きの書き方を次のように教えます。短くて平易な言葉で、してほしい動作を一文にし、使う場所のすぐ近くに置きます。注意の気持ちを書くのではなくて、動作を書くのがこの教え方の中心です。2026年10月時点の弊社の考え方です。
小さな注意書きが読まれない理由
「間違えることがあります」は、正しい文です。しかし、小さく書かれていて、読む人に何をしてほしいのかが書かれていません。
読む人は、間違えることがあると知っても、何をすればよいのか分かりません。そのため、目に入っても行動は変わりません。
研修の最初に、受講者が毎日使っているAIの画面を開かせます。注意書きがどこにあり、どれくらいの大きさかを見てもらったうえで、「この文を読んで、次に何をしますか」と聞きます。答えに困る人が多いこと自体が、そのまま教材です。
読まれる注意書きの条件
読まれる注意書きの条件は3つです。短く平易な言葉で書くこと、してほしい行動とセットにすること、入力欄の近くなど使う場所に置くことです。
たとえば「AIの出力は必ず再確認してください」を入力欄の近くに置く形です。読む人は、答えを受け取る前にこの一文を目にします。そして、再確認という動作を思い出せます。
研修では、この3つを黒板に書くだけで終わらせません。受講者が自分で書いた文を、3つの条件に照らして点検させます。
書き直しの練習
注意書きの教え方は、書き直しの練習がいちばん分かりやすいです。禁止や心構えの文を、動作の文に直させます。
| 元の文 | 書き直した文 | 置く場所 |
|---|---|---|
| AIは間違えることがあります | AIの出力は必ず再確認してください | 入力欄の近く |
| 個人情報の取り扱いに十分注意すること | お客様の名前は、AIに入れる前に消してください | 入力欄の上 |
| 生成物を無断で社外に出さないこと | 社外に送る前に、上司に見せてください | 送信の手前 |
左の文は、注意の気持ちを書いています。右の文は、読んだ人が次にやることを書いています。
書き直しのとき、受講者がよく迷うのは「十分に」「適切に」という言葉です。この言葉は、何をすればよいかを読む人に委ねています。研修では、その言葉が出たら、動作に置き換えるよう促します。
社内ルールは置く場所で変える
注意書きと同じ考え方は、社内のAIルールにも使えます。禁止事項を長い文書に並べるより、使う場所に近く、してほしい動作を一文で書きます。
文書の置き場は、受講者に聞くと分かれます。共有フォルダの奥にある、という答えが多いはずです。そこで研修では、ルールを使う場面ごとに分けて置き直す練習をします。
- メールの下書きを頼む場面
- 送る前に、人が全文を読む
- 資料を作らせる場面
- 数字は元の資料と見比べる
- お客様の情報を扱う場面
- 名前や連絡先は消してから入れる
場面ごとに一文あれば、読む人は迷いません。文書全体を読み通してもらう必要がなくなります。
なお、会社として何を禁止するかは、別の問いです。4つに絞って先に教える方法は、会社のAIでやらないことは、4つに絞って研修で先に教える(新しいタブで開きます)に書きました。
弊社の運用での例
弊社では、AIが勝手に外へ出してしまう事態を、注意書きではなく設定で防いでいます。弊社のAIには、下書きの作成と閲覧の権限しか与えていません。投稿のボタンは人が押します。
外へ出る文は、会社として出してよいかを、機械の判定(Jev)で点検してから出します。点検の文面も、禁止の羅列にはせず、確かめる動作が分かる形にしています。
注意書きは、読まれなかったときの最後の頼みにすぎません。守ってほしいことは、できるだけ設定で決めます。そのうえで、動作の一文を置くのは、人が判断する場面だけです。研修では、この順番も受講者に伝えます。
研修の進め方
社員全員を対象にした単発のワークショップでも、同じ手順で進められます。弊社の Qu の法人向けワークショップは、1回3時間の単発です。
- 自分の部署で使っているAIの注意書きを集める
- 「読んで次に何をするか」を、各自が一言で答える
- 答えられない文を、動作の文に書き直す
- 隣の人に読んでもらい、次の動作が同じになるか確かめる
- 書き直した文を、置く場所とセットで決める
4番目が大切です。書いた本人は意図を知っているので、読める気になります。別の人が読んで、同じ動作になって初めて、読まれる文だと言えます。
直した文を確かめる
書き直した文は、一度出して終わりにしません。数週間たったら、受講者に聞き直します。その文を最近読んだか、読んだあとに何をしたかを尋ねます。
読まれていなければ、置く場所が悪いか、言葉が長いかのどちらかです。まず場所を動かし、次に文を短くします。直す順番を決めておくと、迷わずに済みます。
注意書きもルールも、書いた時点では完成していません。使う人の動作が変わったかで、出来の良し悪しが決まります。研修では、その確かめ方まで含めて教えます。