この資料では、TypeSafe AI が 2026-09-15 に公開したモデル「Jev」を扱います。Jev は文章を返しません。質問と「状態」を渡すと、はい/いいえの確率・選択肢のどれか・段階つきの点数だけを返します。
目的は、Jev が学んだ教材のどこに関係するかを知ることです。 教材で扱った「AI に決まった形で答えさせ、条件で分ける」場面は、文章を書く AI に無理をさせていた部分です。ワークフロー設計の分岐と、エージェント設計の承認・停止・記録に Jev を置くと何が変わるかを見ます。
Jev は文章を書かず、判断だけを返すモデルだ
Jev は、TypeSafe AI が「System One モデル」と呼ぶ新しい種類のモデルの第1弾です(出典1、2)。名前は Daniel Kahneman の『ファスト&スロー』に由来します(出典1)。速く直感で答える「システム1」と、遅く順を追って考える「システム2」の区別を借り、文章を順に書き出す従来の LLM に対して、即答する側に Jev を置いています。
| 比べる点 | 従来の LLM | Jev |
|---|---|---|
| 受け取るもの | 会話の履歴 | 「状態」と、型を決めた質問 |
| 返すもの | 文章 | 選択肢のどれか・段階・はい/いいえの確率 |
| 答えの出し方 | 単語を1つずつ順に書く | 全部の答えを一度に出す |
| 使う側の手間 | 文章を読み取って検証する | 返った値をそのまま条件に使う |

「状態」とは、判断の材料になる情報の束のことです(出典2、3)。問い合わせの本文や顧客の記録のように、手元にあるものをまとめて渡します。Jev はその状態に対して、渡された質問だけに答えます。
自分の業務で「文章は要らず、どちらかを決めてほしいだけ」という場面を1つ思い浮かべてください。それが Jev の対象です。
返す答えは3種類あり、確率が付く
質問の型は3つで、どれも答えの形が先に決まっています(出典2、3)。文章の AI のように「答えの中から値を探す」作業が要りません。
| 型 | 問いの形 | 返るもの | 業務での例 |
|---|---|---|---|
| Choice(選択) | この中のどれか | 選んだ選択肢と、選択肢ごとの確率 | 問い合わせの担当部署を決める |
| Score(段階) | どの段階か | 段階の位置と、段階ごとの確率 | 緊急度を高・中・低で付ける |
| Noul(真偽) | これは本当か | はいである確率(0〜1) | 返金の要求が含まれるか |
Choice と Score には「確信度(confidence)」が付きます。確率が1つの選択肢に集中していれば高く、ばらけていれば低くなります。TypeSafe AI はこれを3段に分けて使うことを勧めています(出典4)。
| 確信度 | 仕組みの振る舞い |
|---|---|
| 高い | そのまま自動で進める |
| 中くらい | 人に確認する、または印を付けて後で見る |
速さと安さの理由と、引き換えに失うもの
速さと安さは、答えを一度に出す仕組みから来ています(出典1、6)。従来の LLM は単語を順に書くため、答えが長いほど時間がかかります。Jev は全部の答えを並列に出すので、質問を増やしても応答時間がほとんど変わりません(出典2)。応答時間と料金の数値は変わるので、出典1と5で確認してください。
引き換えに、できないことがあります。
| できないこと | 中身 |
|---|---|
| 文章を書く | 要約・返信文は返らない。文章が要る工程は従来の LLM に残す |
| 選択肢の外の答え | 渡した選択肢の外の値は返らない。「その他」を選択肢に入れておく(出典3) |
| 順を追って考える問い | 「分析して最善策を決めて」は向かない。要因ごとの小さな質問に分ける(出典3) |
「幻覚が無い」という言い方には、留保が要ります。 TypeSafe AI が保証しているのは「型の誤りが出ない」、つまり決めた形の外の答えが返らないことです(出典1)。The Register は、これは答えの中身が正しいことを意味しないと指摘しています(出典6)。上司に説明するなら、「間違えないモデル」ではなく「答えの形が崩れないモデル」と言うのが正確です。
学んだ教材との接点
ワークフロー設計 04 の「構造化出力 → IF/ELSE」
「ワークフロー設計」の04では、LLM ノードの構造化出力で緊急度を高・中・低の1語に固定しました。次の IF/ELSE ノードは「Is」で完全一致させて経路を分けます。表現のゆれを許さないための設計でした。 Jev の Score か Choice に置き換えると、この問題の性質が変わります。
| 比べる点 | 04 の作り(LLM の構造化出力) | Jev に置き換えた場合 |
|---|---|---|
| 「高」以外の表現が返る恐れ | 説明欄で禁じているが、保証はない | 選択肢の外は返らない(出典3) |
| 迷いの見え方 | 「高」か「中」のどちらかしか分からない | 高 0.55・中 0.40 のような割れ方が見える |
| 分岐の条件 | 文字列の一致 | 確率か確信度の閾値 |

変わるのは分岐の手前だけで、分岐した先の作りは変わりません。 経路ごとにテンプレートノードと出力ノードを置く設計は、そのまま生きます。Dify から Jev を呼ぶ方法は、当社ではまだ検証していません。
エージェント設計 03・04・06 の「止める・承認する・記録する」
「エージェントを業務に組み込む設計」では、止めるは機械的な条件、承認は人の判断、と分けました。04の「取り返しがつくか」「影響が社外に及ぶか」の2つの基準は、Noul でそのまま聞けます。
| 教材で決めたこと | Jev に任せた場合 |
|---|---|
| 止める(03): 条件に一致したら止まる |
使うときの線引き
入力した「状態」は TypeSafe AI のサーバーへ送られます。 2026-09-18 時点では早期アクセスで、Vercel の AI Gateway 経由でも呼べます(出典1、5)。
| やってはいけないこと | 代わりにすること |
|---|---|
| 顧客名・個人情報・未公開の数値を「状態」に入れる | 判断に要る部分だけを、置き換えた形で渡す |
| 確率と確信度を見ずに、答えを自動実行へ繋ぐ | 確信度の3段を決め、中と低は人へ回す |
| 「幻覚ゼロ」を「間違えない」と読み替えて資料に書く | 「答えの形が崩れない」と書く |
自社で試すなら
自社の業務で「条件で分ける」場面を1つ選び、次の表を埋めてください。題材は自社のものに置き換えて構いません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分ける場面 | (例)問い合わせを担当部署へ振り分ける |
| 質問の型 | Choice/Score/Noul のどれか |
| 選択肢または段階 | (例)経理・技術・営業・その他 |
| 確信度が低いときの行き先 | (例)総務の当番が読んで振り分ける |
| 「状態」に入れてはいけない情報 | (例)顧客名、契約金額 |
成果物はこの表1枚です。ワークフロー設計 04 で作った分岐のどこに差し込むかも、図に印を付けておきます。
出典
出典
- 出典1: TypeSafe AI Blog「Introducing System One Models & Jev」 https://typesafe.ai/blog/introducing-system-one-models-and-jev (確認日 2026-09-18)
- 出典2: TypeSafe AI Docs「Introduction」 https://docs.typesafe.ai/introduction (確認日 2026-09-18)
- 出典3: TypeSafe AI Docs「Primitives (Questions)」 https://docs.typesafe.ai/primitives (確認日 2026-09-18)
- 出典4: TypeSafe AI Docs「Confidence」 https://docs.typesafe.ai/confidence (確認日 2026-09-18)
- 出典5: Vercel AI Gateway「Jev」 https://vercel.com/ai-gateway/models/jev (確認日 2026-09-18)
- 出典6: The Register「TypeSafe AI debuts model for machines that plays Doom」 https://www.theregister.com/ai-and-ml/2026/09/16/typesafe-ai-debuts-model-for-machines-that-plays-doom/5296711 (確認日 2026-09-18)
- 参照した教材: 「ワークフロー設計」04 条件で結果を出し分けよう、「エージェントを業務に組み込む設計」03・04・06