このレッスンでは、Web アプリケーションの公開を引き受ける会社「Vercel」が何者で、コーディングエージェントで作った社内ツールとどう関わるかをつかみます。操作の手順は扱いません。
到達目標は1つです。 Vercel が引き受ける仕事と、自分たちに残る仕事を分けて、上司に説明できるようになることです。
なぜ最初に「何者か」を学ぶか。公開先の名前だけ知っていても、任せてよい範囲を決められないからです。 範囲が曖昧なまま公開すると、壊れたときに誰が直すのか、費用が誰に付くのかが決まりません。
Vercel は「公開して動かし続ける」を引き受ける会社だ
Vercel は、Web アプリケーションをインターネット上で公開し、動かし続けるための基盤を提供する会社です。 手元のパソコンで動いているアプリを、社内の誰もが URL で開ける状態にする仕事を引き受けます(出典1)。
手元で動くアプリと、URL で開けるアプリの間には、次の仕事があります。
| 仕事 | 中身 | Vercel を使うと |
|---|---|---|
| 組み立てる | 書いたコードを、ブラウザが読める形にまとめる | Vercel が自動でやる |
| 置く | まとめたものを、常時動いているコンピュータに置く | Vercel のコンピュータに置かれる |
| 届ける | 開いた人の近くから速く返す | Vercel の配信網が返す |
| 守る | 通信の暗号化、攻撃の遮断 | 自動で HTTPS になり、遮断の仕組みが付く |
この4つを自社で用意すると、サーバーを買うか借りて、設定して、見張る人が要ります。 Vercel はその4つをまとめて引き受けるので、作った人は「コードを書いて送る」だけになります。
自分の社内ツールについて、この4つを誰がやる予定だったかを思い出してから、次へ進みましょう。
push すると公開される
Vercel の中心にあるのは「コードを Git に送ると、公開まで自動で進む」という仕組みです。 GitHub などの Git の置き場と Vercel をつなぐと、push のたびに Vercel が受け取って組み立て、URL で公開します(出典2)。
例えるなら、学級新聞の係と掲示板です。原稿を係のポストに入れると、係が印刷して、次の朝には校内の掲示板に貼り出されています。原稿を書く人は、印刷機の使い方も掲示板の鍵も知らなくてよい、という関係です。
| 学級新聞 | Vercel での対応 |
|---|---|
| 原稿を書く | コードを書く(コーディングエージェントに書かせる) |
| 係のポストに入れる | Git に push する |
| 係が印刷する | Vercel が組み立てる(ビルド) |
| 掲示板に貼る | URL で公開する(デプロイ) |

「デプロイ」は、組み立てたものを URL で開ける状態に置くことを指す言葉です。 この教材では以後、この意味で使います。
コーディングエージェントに「Git に push して」と頼んだ経験があれば、その先で起きていることがこの流れです。
Next.js は作り方、Vercel は置き場だ
Next.js は、React という部品の仕組みで Web アプリケーションを作るための枠組みで、Vercel が開発しています(出典3)。Vercel は Next.js を「設定なしで」置ける、と公式に書いています(出典1)。
2つは別のものです。 Next.js は「どう作るか」を決める枠組みで、Vercel は「どこに置くか」を決める置き場です。同じ会社が作っているので相性がよい、という関係です。
| Next.js | Vercel | |
|---|---|---|
| 何か | 作るための枠組み(無料で使えるソフトウェア) | 置いて動かす基盤(会社のサービス) |
| 費用 | かからない | プランによる |
| 他方なしで使えるか | 使える。別の置き場にも置ける(出典3) | 使える。40 以上の枠組みに対応(出典1) |

コーディングエージェントが社内ツールを Next.js で作っていたら、Vercel は最初の候補になります。 設定なしで置けるので、公開のために手を入れる箇所が少なくて済みます。
自分の社内ツールが何で作られているかを、コーディングエージェントに聞いておきましょう。「このプロジェクトのフレームワークは何か」と聞けば答えが返ります。
引き受けてもらえない仕事がある
Vercel が引き受けるのはサーバー側の仕事で、コードの正しさとデータの扱いは自分たちに残ります。 ここを取り違えると、「Vercel に置いたから安心」という誤解が生まれます。
| 残る仕事 | なぜ残るか |
|---|---|
| コードが正しく動くか | Vercel はコードの中身を判断しない。動かないコードもそのまま公開される |
| どのデータを載せるか | 何を入力するかを決めるのは使う側 |
| 誰に見せるか | 初期状態の URL は、リンクを知る人が開ける。制限は自分たちで設定する(出典4) |
| 壊れたとき誰が直すか | 前の版に戻す機能はあるが、直すのは自分たち |
「誰に見せるか」は、社内ツールでいちばん先に決める項目です。 顧客名や社内の数値を載せるなら、公開の前に見せる範囲を決めます。決め方は次のレッスンで扱います。
自分の社内ツールについて、この4つのうち「決めていないもの」に印を付けておきましょう。
やってはいけないことを先に決める
Vercel に置いたアプリは、社外のコンピュータで動き、URL を知る人が開けます。 動作確認のつもりで本物のデータを載せると、取り消せません。
| やってはいけないこと | 代わりにすること |
|---|---|
| 顧客名・個人名・未公開の数値を、動作確認のために本番の URL へ載せる | ダミーのデータで確認する。本物は見せる範囲を決めてから |
| API キーやパスワードをコードの中に書く | 環境変数に置く(次のレッスン) |
| 「動いた」だけで公開する | 誰に見せるか・壊れたら誰が直すかを先に決める |
この3つは、Vercel に限らず、どの公開先でも同じです。 公開先を変えても、この線引きは持ち越します。
自社の情報の扱いの規程があれば、「社外のサービスに置いてよい情報」の項目を確かめておきましょう。
演習
演習
自社で動かしている社内ツール1本について、次の表を埋めてください。演習の題材は、自社のものに置き換えて構いません。
| 仕事 | Vercel に任せる/自分たちで持つ | 担当者 |
|---|---|---|
| 組み立てる | ||
| 置く・届ける・守る | ||
| コードが正しく動くか | ||
| どのデータを載せるか | ||
| 誰に見せるか | ||
| 壊れたとき誰が直すか |
成果物は、6行が埋まった表と、「Vercel に任せる仕事はこれ、残る仕事はこれ」の2文です。次のレッスンで、公開までの流れを追います。
出典
出典
- 出典1: Vercel「Vercel Documentation」 https://vercel.com/docs (確認日 2026-09-18)
- 出典2: Vercel「Deploying Git Repositories with Vercel」 https://vercel.com/docs/git (確認日 2026-09-18)
- 出典3: Next.js「Next.js Docs」 https://nextjs.org/docs (確認日 2026-09-18)
- 出典4: Vercel「Deployment Protection on Vercel」 https://vercel.com/docs/deployment-protection (確認日 2026-09-18)